清水雷光という人は、つくづくわからない人だ。 いや、髪の毛がぴんくだっていうことからしてもうその思考は理解できないのだけど。 人を見た目で判断してはいけないよ、というのは倫理だし事実わたしも 幼い頃母親に言われた気がしないでもないのだけれど、 どうしたのその髪の色、と問えば『ださくってすてきでしょう?』なんて笑っていってるのだから、 理解できない、どころか変人だ、って言われたって仕方ないと思う。 確かに、その春らしい色の髪は良くも悪くも春夏秋冬いつでも目立っている。まるでそこだけ花が咲いているみたいに。 事実、隠の世界で雷光はその奇抜な髪色で目立っているみたいだし。 (すべて俄雨くんから聞いた話だけれど。わたしは隠の世界のことはよく知らない) 隠の世界では別にかまわないとして、雷光は表の世界でも目立ちたいのだろうか。 事実、雷光とふたりで外を出歩いたりすると人々の視線は必ずと言っていいほど雷光に集中する。 なんだあの頭は、っていう変なものをみる目と、容姿端麗な雷光に見惚れる目と、大概は二種類。 たしかにそのほんわかした髪色と、にこーっとされたら心のなにかをとかされるような笑顔をそなえている雷光は、かっこいい。 というか癒される。癒されるが、こいつはドがつくSだ。 某大江戸SFコメディのキャラクターではないけど、文字通りサディスティック星の王子様だ。 でも話し方とか物腰はものすごく紳士だ。冷静だし。きっと隠の世界での名家とかの出身でおぼっちゃまだったに違いない。 前に、雷光って子供のころどんなんだったの、と聞いたときに雷光がちょっと悲しげで遠くを見る目をしたのちにどうだろうね、と返されたときから 雷光の過去については触れようともしていないし、あっちも何も言ってこなかったきり。それっきりだから有耶無耶なのだけど。 ……以上が、わたしが清水雷光と一緒に居てわかったことだ。結論。清水雷光はよくわからない人。 わからないひとだけど、読めない人だけど、 それでもわたしはいつだって、 わたしに優しくしてくれる雷光が す き 、 だっ た 。 「ごめんなさい」 雷光の肩口で切られた所謂セミロングの髪がさっきからほっぺたにあたっていてこそばゆい。 払いのけたくても、雷光に胸の辺りを両腕とまとめて抱きしめられているから腕を動かせない。 雷光はわたしと目をあわせず、わたしの首元に顔をうずめたまま、ぽっちりとそれだけいった。 それは静謐な室内でやけに響いて、とろんとしかけていたわたしの脳髄を遠慮なくぐらぐらと揺さぶる。 怒られた少年みたいにごめんなさい、と謝る雷光。うそだ。なんかの間違いじゃないの。 おもわず身体を硬くしてしまった。雷光が。ごめんなさいってあやまった。 肩にかすかに触れる雷光のくちびるも、雷光のごめんなさい、に呼応してわたしの肩をくすぐった。 わたしより年上のはずの雷光がこどもに思えてなんだかおかしな気分になる。 いつもの雷光、なんてそんなことはいえなくとも少なくともわたしの知る雷光であったならば 謝るにしても「すまないね」って謝るだろうに。わたしの知らない雷光がここにいる。 わたしの聴覚が、触覚が、視覚が、20歳の雷光を退化させる。 「ごめんなさい、。自分をおさえることができなかった。 壊さないようにとしてきたのに。怖かっただろう。すべてわたしの責任だ。 何と罵られても仕様が無い。ごめんなさい。」 そんなにあやまられると、なんだかいたたまれなくなる。 雷光の頭のある方とは逆の方向に視線を流すと毎朝部屋の鏡の前でみる わたしの通う高校の青いリボンが特徴のセーラー服が無造作に脱ぎ散らかされているのがみえた。 わからない。清水雷光という人が。 “わたし”をひとつも余さず喰らうように掻き抱いて、わたしの大切なものをうばっていった雷光。 そのことをこどものように謝る雷光。 もしかしたらわたしは清水雷光をわかった気でいただけかもしれない。 事実、わたしは雷光がわたしを求めてくるという可能性をとっくの昔に捨てていたから。 雷光は紳士である前にひとりの男だったけど、雷光はわたしを妹のようにみているものだとばかりおもっていたから。 なんだ、わたしがただつまらないイメージを雷光に押し付けていただけ、だったのだ。 どけてよ、と雷光に言おうとしたけど唇から息がこぼれるだけで音になってくれなかった。 ちくしょう。 シーツをぎゅう、とにぎるとぎしりというスプリングの音のあとに シーツをつかんだ右手に粘着質の液体がつく嫌な感覚がして、そろそろと手のひらだけを月の光にかざしてみたら、 わたしの指は左の視界の端に見える、依然突っ伏したままの雷光の髪と同じ色に染まっていた。 わたしのち、と、らいこうのせいしがまざったすてきなぴんく いろ。 * 雷光に処女を捧げた女子高生と己の欲望を止められずに詫びる清水雷光 ちなみに雷光は詫びているけど後悔はしていない* C L O S E ? |