私は大王の首を絞める手に更に力を込めた。大王は自分が部下に絞殺されようとしているのに、ひどく穏やかな顔をしていた。私の腕が疲れて大王の首から離れると、そこには私の手の痕がくっきりと赤く残っていた。私は構わずに、今度は傍にあったナイフを大王に突き立てた。 「大王、死んでください。」 ナイフの先は鋭く光り、大王の頚動脈を裂くのを、今か今かと待ちわびているかのようだった。それを払いのける素振りも見せずに大王はゆっくりと口を開いた。 「そんなんじゃ私は死なないよ。」 ひどく優しい声で、私を諭すようにゆっくりと話した。私は唇を噛んで、噛んで、血が出たけれどどうでもよくて、ただ自分が今にも泣き出しそうな顔をしていることは間違いなかった。 「ちゃん、私はどうやっても殺せないよ。」 ガンガンと頭を殴られているようだった。ナイフを握る手はカタカタと小刻みに震え、私はうつむいて必死に泣くまいとした。大好きな笑顔も優しい声も、今は私を地獄に落とす凶器でしかなかった。ぐさぐさと突き刺さって心を抉っていくそれは大王の莞爾とする顔であり、私の恐れでもあった。 「そんなの、そんなの嘘です。」 声は震えていてとても小さかったけれど、言わなければ泣き出してしまう気がした。 「ごめんね。私を殺してくれようと思ったんだね。でも、もういいんだよ、永遠の時を生きる覚悟はもうとうの昔にできているから。ね。」 「うそ、うそ、」 「ありがとう、本当に。」 「うそ、ですよ、そんなの。だって、」 だってあなたは腕も足も顔もあって、私たちと何も変わらなくて、笑ったり泣いたりするし、優しくしてくれたり、大切な人がいたり、あなたを大切に思う人がいたり・・・私たちと何一つ変わらないのにそんなはずないじゃないですか。ずっとずっと人を裁いて見送るだけの、そんな恒久の時を過ごせるわけないじゃないですか。覚悟ができてるなんてそんな悲しいことを言わないでください。だって、 「ごめんね。」 あなたのこの温もりだって人間と何も変わらないのに
愛しい君よ、
今にときめけ!
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